遺産の使い込みが発覚した場合の対処法は?

2019.07.16 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|認知症だった母の財産を同居の相続人が使い込んでしまったケース

母の相続です。遺言はありません。父は既に他界しており、相続人は兄(長男)と姉(長女)と私(次女)の3人だけです。遺産は、自宅不動産と預金1000万円です。姉は、離婚した後、母と同居し母の介護を行い、また、母の預金についても管理していました。

母は、父の遺産をすべて相続し、2000万円近い死亡保険金も受け取っていましたし、遺族年金も受給していました。また、施設に入っていたわけでもないため、預金が1000万円しかないということは、正直、信じられません。姉からは、預金が1000万円であることの残高証明書を見せられましが、納得できなかったため、金融機関から取引履歴を取り寄せてみました。すると、母が亡くなる数年前から、1回100万円近い金額が、合計15回ほど引き出されていることが判明しました。

母は、晩年認知症が進み、身の回りのことやお金のことはすべて姉に任せていたため、姉が母の口座から合計1500万円引き出したことは間違いありません。まったく納得できませんが、このような場合、私は姉に対して、何か主張できないのでしょうか?

架空の事例です

遺産分割の対象財産は?

「遺産分割」とは、被相続人の死亡によって共同相続人の共有(遺産共有といいます。)に属することになった個々の財産について、その共有関係を解消して、各相続人の単独所有又は一定の共有関係にする手続です。もっとも、死亡時にあった財産でも、遺産分割を行う際に現に存在しない財産については、実際に分割を行うことができません。そのため、遺産分割の対象となる財産は「相続開始時に存在し、かつ分割時にも存在する財産的価値のある未分割の遺産」となります。

そうすると、相続人が生前に使い込んだ預金は相続開始時に存在しませんし、また、相続人が死後に使い込んだ預金は分割時に存在しないため、結局、使い込まれた預金については、遺産分割の対象財産ではないことになります。

家庭裁判所での解決は難しい?

使い込まれた預金であっても、相続人全員が合意すれば、その預金額(もしくは同額の現金)を遺産分割の対象財産とする取扱いが実務上認められています。しかしながら、預金を引き出したこと自体が争われるケースや、被相続人から引き出しを依頼されたなどと、自身の使い込みを否定する相続人は少なくありません。

このような場合、相続人間で当該預金を遺産分割の対象財産とする合意をすることは難しく、そうなると、原則として遺産分割の対象財産でない以上、家庭裁判所での調停や審判によっては使い込みの問題を解決できません。その場合、別の法的手続きにより解決をせざるを得ないことになります。

不当利得返還請求又は損害賠償請求

預金の使い込みについては、不当利得返還請求訴訟又は損害賠償請求訴訟を簡易裁判所又は地方裁判所で行うことになりますが、使い込みの時期が相続開始の前後いずれかによって、他の相続人が主張する法的構成が若干異なります。

相続開始前の使い込み

被相続人が使い込んだ者(処分者)に対し、引き出した預金と同額の不当利得返還請求権ないし不法行為の損害賠償請求権を取得します。そして、相続開始により、他の法定相続人が、自己の法定相続分に応じて分割された同債権を取得することになります。

相続開始後の使い込み

相続発生時に存在した預金は、各相続人が法定相続分に応じた金額を取得する権利を有するため、自己の法定相続分を超えて引き出した(使い込んだ)場合、他の法定相続人が処分者に対し、不当利得返還請求ないし不法行為の損害賠償請求をすることができます。

相続法の改正(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の取扱いの規律)

なお、相続法の改正により、相続発生後遺産分割協議前の使い込みについては、処分相続人以外が同意することにより、使い込まれた相続財産が遺産分割時に存在するものとみなすことができ、それにより、遺産分割の対象財産とすることができるようになりました。

もっとも、処分相続人以外の相続人全員の同意が得られない場合や、処分者とされた相続人が自身の引き出しを否定する場合には、なお従前のとおり、不当利得返還請求又は損害賠償請求によらなければいけません。

  • 01 使い込まれた預金も、相続人間で合意できれば遺産分割の対象にできる
  • 02相続人間で合意がなければ、不当利得返還請求又は損害賠償請求で解決を図る
  • 03相続法改正により、処分相続人以外の同意があれば遺産分割の対象となる

まとめ

以上のとおり、本来遺産となるべき預金の使い込みについては、裁判所における不当利得返還請求又は損害賠償請求により、相続人間の不公平を実質的に是正していくことになります。

事例のケースでは、長女による1500万円の使い込みが認められる場合、次女は長女に対し、自己の法定相続分(3分の1)に応じた500万円を不当利得として請求することができ、長女がこれに応じなければ、地方裁判所に不当利得返還請求訴訟を提起することになります。

なお、使い込み返還請求訴訟では、証拠の有無が特に重要となりますので、できる限り証拠を集めておくようにしましょう。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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