銀行預金は遺産分割の対象か?

2019.07.16 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|特別受益により銀行預金の取得額が法定相続分を下回るケース

母の相続です。遺言はありません。父は既に他界しているので、相続人は、兄(長男)と私(次男)の2人のみで、遺産は預金4000万円と自宅不動産(2000万円)です。そのほかに、兄は母から、亡くなる半年前に現金4000万円の生前贈与を受けていることが分かりました。兄への生前贈与は特別受益ですので、その分は遺産に持ち戻すべきものです。そのため、母の遺産総額は8000万円になります。

私は、母と同居していた自宅不動産の取得を希望し、その点は兄も同意してくれました。そうすると、兄は、生前贈与(4000万円)を受けているので、遺産である預金のうち、1000万円しか取得できないはずです。

しかし、兄は、「預金は債権だから、法律上、当然に半分になる」と言って、預金についても2000万円を取得できると主張しています。その主張を前提にすると、兄は最終的に6000万円(生前贈与4000万円+預金2000万円)取得できることになり、私は4000万円(自宅不動産2000万円+預金2000万円)しか取得できないことになります。

これではあまりに不公平だと思うのですが、兄の言うとおり、預金は債権だから、当然に分割されてしまうのでしょうか?

架空の事例です

預金は現金?債権?

日常生活において、現金か預金かを厳密に分けて考えることはほとんどありません。なぜなら、預金者が希望する場合、原則として預金残高をすぐに金融機関から引き出して現金化することができるため、残高分の現金を持っているのと、ほとんど意味が異ならないからです。

しかし、現金と預金は、法的には異なるものとして取り扱われます。すなわち、現金は動産として取り扱われますが、預金は、金融機関に対する預金の払戻請求権という債権です。

そのため、預金の相続とは債権を相続する局面であり、現金を相続する場合とは異なる、という前提を理解しておく必要があります。

従来の判例

従来の判例では、預貯金は可分債権(分割が可能である債権)とされ、相続開始と同時に法定相続分で各相続人に当然分割するとされていました。

そのため、預貯金については、相続人全員が遺産分割協議の対象とすることに合意しない限り、遺産分割の対象とならず、各相続人は、法定相続分に応じた払戻しを請求することができるとされていました。

金融機関実務との不一致

もっとも、金融機関の実務では、預金の相続に関する上記判例にも関わらず、払戻しのためには相続人全員の合意を求める金融機関が少なくなく、判例の結論と実務の取扱いには依然として差異がみられました。

そのため、相続人としては、法定相続分の払い戻しに応じない銀行に対しては、預金の払い戻しを求める訴訟を提起して、ようやく自己の法定相続分の預金を確保できるという状況でした。

判例変更

そのような実務的状況において、平成28年12月19日、最高裁大法廷は、以下のとおり判示し、従来の判例を変更して、預貯金が遺産分割の対象となるとの判断を示しました。

判例

『共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。』

これにより、今後の金融機関実務は、遺産分割が終了するまでは共同相続人の1人からの預金の払戻し請求には応じない、という取扱いに統一されたと考えられます。

相続法改正(預貯金の仮払い制度)

なお、相続法が改正され、一定額の範囲であれば、相続人の1人から、裁判所の手続きを使わずに、銀行窓口で相続人一人から遺産たる預貯金の払戻しができることになりました。また、相続人の1人が裁判所の手続きを利用して預貯金の払戻しを求める場合にも、要件が緩和され、具体的な資金需要があれば払戻しが認められやすくなりました。

詳細は、基礎知識3-3を参照してください。

  • 01従来の判例では、預金債権は遺産分割の対象外とされていた
  • 02判例変更により、預金債権も遺産分割の対象とされることになった
  • 03当面の資金需要には、改正相続法の仮払い制度や仮分割の仮処分を利用する

まとめ

以上のとおり、相続預金が遺産分割の対象となることは、判例上及び実務上も明らかです。

事例のケースでは、預金4000万円も遺産分割の対象となる結果、兄は生前贈与4000万円のほか預金1000万円を取得し、弟は自宅不動産2000万円と預金3000万円を取得することとなり、兄弟間の公平は実現されることとなります。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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