銀行預金は遺産分割の対象か?

2019.07.16 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|預金が法定相続分に応じて当然に分割されるか争われたケース

母が亡くなりました。父は既に他界しているので、相続人は兄(長男)と私(次男)の2人のみです。遺産は預金3000万円と自宅(2000万円)です。


兄は、両親と同居していた自宅の取得を希望したので、その点は、兄の希望を受け入れました。そうなると、兄は預金については500万円しか取得できないことになるはずです。

しかし、兄は、「預金は債権だから、法律上、当然に半分になる」と言っていて、預金についても1500万円を取得できると主張しています。。

兄の主張を前提にすると、兄は最終的に3500万円(自宅2000万円+預金1500万円)取得できることになり、私は預金1500万円しか取得できないことになります。

これではあまりに不公平なので、兄の自宅取得について考え直そうかと思っているのですが、そもそも兄の言うとおり、預金は当然に分割されてしまうのでしょうか?

架空の事例です

はじめに

従来の判例では、兄が主張するとおり、銀行預金は遺産分割の対象外とされ、法定相続分に応じて当然に分割されていましたが、平成28年12月19日の最高裁決定で判例が変更され、銀行預金も遺産分割の対象となりました。

それでは以下で、詳しく見ていきましょう。

目次

 ■ 預金は現金?債権?
 ■ 従来の判例と実務との不一致
 ■ 判例変更により預貯金も遺産分割の対象となった
 ■ 相続法改正(預貯金の仮払い制度)

預金は現金?債権?

日常生活において、現金か預金かを厳密に分けて考えることはほとんどありません。なぜなら、預金者が希望する場合、原則として預金残高をすぐに金融機関から引き出して現金化することができるため、残高分の現金を持っているのと、ほとんど意味が異ならないからです。

しかし、現金と預金は、法的には異なるものとして取り扱われます。すなわち、現金は動産として取り扱われますが、預金は、金融機関に対する預金の払戻請求権という債権です。

そのため、預金の相続とは債権を相続する局面であり、現金を相続する場合とは異なる、という前提を理解しておく必要があります。

従来の判例と実務との不一致

従来の判例では、預貯金は可分債権(分割が可能である債権)とされ、相続開始と同時に、各相続人に法定相続分に応じた割合で当然に分割されていました。

たとえば、事例のケースですと、兄の言うとおり、兄と弟でそれぞれ1500万円の預金を当然に取得することとされていたわけです。

そのため、遺産の中に預貯金がある場合、相続人全員が遺産分割協議の対象とすることに合意しない限り、遺産分割の対象とならず、各相続人は、自分の法定相続分に応じた払戻しを金融機関に請求することができることになっていました。

もっとも、金融機関の実務では、上記判例にも関わらず払戻しのためには相続人全員の合意を求める場合が少なくありませんでした。

そのため、相続人は、結局、法定相続分の払戻しに応じない金融機関に対し、預金の払戻しを求める訴訟を提起せざるを得ず、それによりようやく、自己の法定相続分の預金の払戻しを受けられるというのが、実務の状況でした。

判例変更により預貯金も遺産分割の対象となった

そのような実務の状況において、平成28年12月19日、最高裁大法廷は、以下のとおり判示し、従来の判例を変更して、預貯金も遺産分割の対象となるとの判断を示しました。

判例

『共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。』

これにより、今後の金融機関の実務は、遺産分割が終了するまでの間は、共同相続人の1人からの法定相続分に応じた預金の払戻し請求には応じない、という取扱いに統一されたと考えられます。

相続法改正(預貯金の払戻し制度)

なお、相続法が改正され、一定額の範囲であれば、相続人の1人から、裁判所の手続きを使わずに、銀行窓口で相続人一人から遺産たる預貯金の払戻しができることになりました。

また、相続人の1人が裁判所の手続き(仮分割の仮処分)を利用して預貯金の払戻しを求める場合にも、要件が緩和され、具体的な資金需要があれば払戻しが認められやすくなりました。

詳細は、基礎知識3-3及び相続コラム「相続法改正~預貯金の払戻し制度」を参照してください。

  • 01従来の判例では、預金債権は遺産分割の対象外とされていた
  • 02判例変更により、預金債権も遺産分割の対象とされることになった
  • 03当面の資金需要には、改正相続法の仮払い制度や仮分割の仮処分を利用する

まとめ

いかがでしたか。判例の変更により、これまでの実務の取扱いと同じように、遺産である預貯金が遺産分割の対象とされることが明らかになりました。

事例のケースでは、預金3000万円も遺産分割の対象となりますので、法定相続分を前提に考えた場合、兄は、自宅(2000万円)を取得するのであれば、預金からは500万円氏しか取得することができず、預金残高2500万円は弟が取得することになり、これにより、兄弟間の公平は確保されることになります。

ですので、兄の「預金は当然に分割されるんだ」という主張は、現在の判例の理解とも異なりますし、実務上も、金融機関が兄単独での払戻しには応じないため、認められないことになります。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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