相続法改正~持戻し免除の意思表示推定規定

2019.07.22 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|夫が妻に、生前、自宅不動産を贈与していたケース

夫の相続(2019.7死亡)です。遺言はありません。相続人は、妻の私と息子(長男)のみの2人です。遺産は、預金3000万円のみです。夫は、亡くなる5年ほど前、結婚30年を記念し、税金もかからないとのことで、自宅不動産(2000万円)を私に贈与してくれています。

息子とは、夫の預金を1500万円ずつ分けようと思い、当然に手続に協力してくれると思い、預金解約書類に署名捺印の協力を求めましたが、息子は何と、「お袋は親父から自宅の贈与を受けているのだから、その点を考慮せずに預金を半分にしてしまうのは不公平だ。自宅の贈与も加味して預金の取り分を決めたい。きっと、親父もそう分けることを望んでいるはずだ。」と言ってきました。

まさか息子がそんなことを言うとは思わず、とてもショックを受けましたが、遺産分割にあたり、私が夫から贈与を受けた自宅についても考慮しなければいけないのでしょうか?

架空の事例です

夫婦間の自宅贈与も遺産分割の対象?

婚姻期間が20年以上の夫婦間では、居住用不動産の贈与について贈与税の特例(いわゆる「おしどり贈与」)もあるため、夫婦間で自宅贈与が行われることは少なくありません。長年連れ添った夫婦の一方から他方に自宅の贈与が行われる場合、通常、長年の貢献に報いるとともに、老後の住居・生活を保障する趣旨で行われることが多いと思われます。そのような夫婦間では、他方配偶者に贈与した自宅について、遺産分割の際に持ち戻して配偶者の取得額を決めさせようとの意図を有していない場合が多いでしょう。

ところが、居住用の自宅贈与は、「生計の資本としての贈与」にあたるため、他方配偶者の特別受益となります。そのため、遺産分割にあたっては、贈与した自宅も遺産に持ち戻して計算しなければならないのが原則であり、贈与した配偶者が、持戻し免除の意思表示(自宅を遺産に持ち戻さなくていいですよ、との意思表示)をしていたと解される場合には、例外的に遺産に持ち戻す必要がないこととされていました。

しかし、明示的に持戻し免除の意思表示をしているケースは少ないため、持戻し免除の意思表示が黙示的にあったといえるかが争いになり、結局、立証できずに、自宅も含めて遺産分割をしなければいけないという事例が少なくありませんでした。そうなると、他方配偶者は自宅以外に十分な遺産を取得できず、老後の生活資金にも不安が生じてしまいます。

持戻し免除の意思表示の推定規定

そこで、改正相続法では、自宅を贈与する一方配偶者の意図と、おしどり贈与の場合に贈与税の優遇措置が講じられている点も踏まえ、婚姻期間20年以上の配偶者間において居住用不動産の贈与等が行われた場合について、持戻し免除の意思表示が推定されることになりました。これにより、配偶者の遺産の取得額を増やすことができ、配偶者の生活保障をより厚くすることが可能となりました。ただし、あくまで「推定」規定なので、贈与配偶者が、自宅についても持戻し計算を行う意思を表示している場合には、推定が覆り、持戻し計算を行う必要があります。

このように、夫婦間の自宅贈与について、改正前は原則持戻し計算が必要であったのに対し、改正法により原則持戻し計算が不要になったのです。

適用を受けるための要件

持戻し免除の意思表示推定規定の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 婚姻期間が20年以上の夫婦であること
    ※事実婚の期間は含まれません。
    ※贈与又は遺贈時に婚姻期間が20年以上であることが必要です。
  • 贈与等の目的物が居住用不動産(居住用の建物又はその敷地)であること
    ※贈与等がされた時点で、居住の用に供されていることが必要です。
  • 贈与又は遺贈されたこと

    なお、施行日(2019年7月1日)前に夫婦間で行われた居住用不動産の贈与等については適用されません。

  • 01夫婦間の自宅贈与について持戻し免除の意思表示の推定規定が創設された
  • 02配偶者の遺産取得額を増やすことができ、配偶者の生活保障がより厚くなった
  • 03あくまで「推定」規定のため、持戻しの意思表示があれば持戻し計算の必要あり

まとめ

以上のとおり、相続法改正により、配偶者の保護が強化され、婚姻期間20年以上の配偶者間において居住用不動産の贈与等が行われた場合について、持戻し免除の意思表示が推定されることになりました。

しかし事例のケースでは、残念ながら改正法施行前に夫婦間で行われた居住用不動産の贈与ですので、持戻し免除の意思表示が推定されません。そのため、原則として自宅不動産も遺産分割の対象となってしまいますので、妻側としては、少なくとも黙示の持戻し免除の意思表示があったことを立証するために、おしどり贈与が行われた経緯や生前の夫の言動等に関する証拠を探してみることをお勧めします。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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