相続法改正~配偶者居住権

2019.08.03 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|母が引き続き実家での生活を希望したケース

父の相続です。遺言はありません。相続人は、母(妻)と、私(長女)と弟(長男)の3人です。遺産は、自宅の土地建物(2000万円)と預金(2000万円)です。3人の間では、法定相続分に基づき平等に分けようということについては合意ができています。

母は、父と長年生活した自宅で今後も生活することを望んでいますが、ずっと専業主婦だったので、母名義の預金がほとんどありません。そのため、遺産分割で母が自宅を取得した場合、法定相続分どおりだと預金を取得できなくなってしまうので、老後の生活費が不安だと言っています。とはいえ、弟に自宅を取得させてしまうと、弟は事業を行っていて浮き沈みが激しいため、資金繰りが苦しくなった場合に自宅を売却してしまう可能性もあり、母が今後も自宅に居住し続けられるかが不安定です。

このような場合に、母が、自宅に引き続き居住する権利を確保しつつ、老後の生活費として預金もある程度は取得できることはできないのでしょうか?

架空の事例です

改正前は居住権の確保が難しかった?

改正前は、配偶者が被相続人と同居していた居住建物に住み続けたい場合、原則として遺産分割協議で居住建物の所有権を取得しなければいけませんでした。
もっとも、不動産は高額であることが多く、不動産を取得すると、その分、預貯金等の取得割合が減ってしまいます。そうなると、配偶者の老後の生活資金に不安が残ってしまうことが少なくありません。

本件のケースでも、母が実家の土地建物を相続してしまった場合、法定相続分に基づくと母は預金を取得することができなくなってしまい、自己名義の預金がほとんどない母としては、老後の生活に不安が残ってしまいます。

妻の居住権を法的に保護

しかし、配偶者としては、必ずしも所有権の取得にこだわっているわけではなく、単に居住し続けることを望んで不動産の取得を希望していることがほとんどです。そこで、配偶者の居住権を確保しつつ、老後の生活資金も遺産からある程度取得できるようにするために、所有権よりも低額評価となる居住を目的とした権利が創設されました。この権利が「配偶者居住権」です。

施行日は令和2年(2020年)4月1日とされており、施行日までまだ時間があるため、その評価方法などは今後さらに検討が進んでいくものと思われます。

配偶者居住権の内容

適用要件

配偶者居住権の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります(1028条)。

  • ①配偶者が相続開始のときに、被相続人所有の建物に居住していたこと
    ※「配偶者」には、内縁の配偶者は含みません。また、配偶者が生活の本拠にしていたことが必要です。
  • ②当該建物が、被相続人の単独所有又は配偶者と2人の共有であること
    ※第三者と共有している建物に配偶者居住権を取得させることはできません。
  • ③配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈又は死因贈与がされたこと
    ※あくまで配偶者の意思を尊重するために、特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)によることはできません。

効果及び存続期間

配偶者居住権は、第三者への譲渡が禁止されており、また、配偶者の死亡により消滅するため、相続の対象外となります。

配偶者居住権を遺産分割で取得した場合、その評価額相当額を相続したものと扱われることになります。また、遺贈又は死因贈与により取得した場合、特別受益となります。ただし、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方に対して行った配偶者居住権の遺贈については、持戻し免除の意思表示が推定されます(1028条3項、903条4項)。

存続期間は、原則、配偶者の終身となりますが、遺産分割協議、遺言、審判により存続期間を定めることは可能です。その場合、延長や更新はできないものとされています。

なお、配偶者が配偶者居住権を第三者に対抗するためには、居住建物の「引渡し」では足りず、配偶者居住権の設定登記をしなければいけません。

  • 01相続法改正により配偶者居住権が創設された
  • 02所有権より評価額が低く、第三者に譲渡することもできない
  • 03施行期日は令和2年(2020年)4月1日

まとめ

以上のとおり、相続法改正により、令和2年(2020年)4月1日以降に発生した相続に関しては、一定の要件のもと、被相続人建物に居住していた配偶者は、所有権よりも評価額の低い配偶者居住権を取得することができるようになりました。

事例のケースでは、母が配偶者居住権を取得した場合でも、母は預金からも一定額を取得することができると思われますので、母の老後の生活費として多少なりとも金銭的ゆとりを持つことが可能となります。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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