遺言書の偽造が疑われる場合の対処法

2019.11.08 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|遺言書の文字が被相続人の筆跡と明らかに異なるケース

母の相続です。父はすでに他界しています。相続人は、同居していた兄(長男)と、私(次男)、妹(長女)の3人です。

兄より、母の遺言があったと報告があり、その後、裁判所より、検認期日の呼出状が届きました。そして、検認期日に兄妹3人が出席し、遺言書が開封されましたが、内容は「私のすべての財産を長男に相続させる」と記載されていました。

母は生前、私たち兄妹に「遺産は3人で公平に分けてね」と言っていたので、母がそのような遺言を書くとは思えません。そもそも遺言書の筆跡が、明らかに母の筆跡と異なりますので、同居していた兄が、母の印鑑を使って勝手に作ったのではないかと疑っています。

そこで、遺言書が兄に偽造されたと主張したいのですが、誰に、何を、どう主張すればいいのでしょうか?また、偽造されたことがわかった場合、何か兄に制裁はあるのでしょうか?

架空の事例です

遺言を偽造するとどうなる?

偽造」とは、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性、つまり作成名義を偽って新たに文書を作成することをいいます。

自筆証書遺言は、全文を自書しなければ無効となってしまいますが(なお、相続法改正により、自筆証書遺言に目録を添付する場合には、その目録は自書の必要がなくなりました。)、偽造された遺言は、「自書」性の要件を満たさないため無効となります。
そのため、偽造された遺言はなかったものとして、遺産分割が行われることになります。

それでは、遺言書が偽造され、それを真正な遺言書として他の相続人に示した場合、どのような責任を負うのでしょうか。

まず、民事上は相続人の欠格事由に該当し、相続権を失うことになります(民法891条5号)。
また、刑事上は有印私文書偽造罪及び同行使罪の構成要件に該当し、3月以上5年以下の懲役に処せられます(刑法159条1項、161条1項)。

このように、遺言書を偽造し、真正な遺言書として他の相続人に提示した場合、民事刑事それぞれの重い責任を負うことになります。

遺言書の偽造を争う方法 ~民事編~

それでは次に、遺言書の偽造が疑われる場合、民事ではどのように争うのかについて解説していきます。

まず、先程も述べたとおり、偽造された遺言書は無効ですが、他の相続人が有効であると争う場合は、遺言の無効確認請求訴訟を提起して、遺言が無効であることを裁判所に確認してもらう、ということが考えられます。
そして、裁判所が遺言が無効であるとの判決をした場合、相続人はその判断に拘束されることになります。この拘束力を法的には「既判力」といいます。

もっとも、その拘束力(既判力)が生じる範囲は、あくまで「遺言が無効であること」にとどまり、「遺言書が偽造されている」、という判決理由の部分については拘束力が生じません
そのため、ある相続人が偽造したかどうか、それにより相続権を失ったか否かについて、裁判所の拘束力のある判断を得るためには、偽造したと思われる相続人が欠格事由に該当し相続権を失ったことの確認を裁判所に求める、つまり相続権不存在確認請求訴訟を提起することが考えられます。

これにより、被告とされた者が偽造したことを理由として、その者の相続権が不存在であるとの裁判所の判断がなされた場合、その者は裁判所の判断に拘束され相続権を失うことになりますので、今後、その者を除いて遺産分割協議を行うことが可能となります。

遺言書の偽造を争う方法 ~刑事編~

次に、刑事上ではどのように遺言書の偽造を争うのかを解説していきます。

まず、遺言書は、公文書ではない、「権利、義務又は事実証明に関する文書」にあたりますので「私文書」にあたります。
そして、遺言書の有効要件として押印がされますので、「有印」の私文書となります。
そのため、この文書を「偽造」(意味は前述のとおり)した場合、有印私文書偽造罪に該当します。

さらに、この有印私文書を「行使」した場合、偽造有印私文書行使罪に該当します。「行使」とは、偽造された私文書等を真正なものとして他人に提示するなどして内容を認識できるようにした場合のことをいいます。

そこで、ある相続人が遺言書を偽造し、他の相続人に真正な遺言書であるとして提示した場合、有印私文書偽造罪及び同行使罪という犯罪になりますので、他の相続人としては、管轄の警察署長宛に刑事告発して、刑事処分を促すという対応が考えられます。

偽造であることの立証方法

まず、被相続人が自書した書面と遺言書の筆跡について、筆跡鑑定を行うことが考えられます。
もっとも、結果については筆跡鑑定人ごとに内容が異なることが少なくなく、精度としては、鑑定結果のみで偽造の有無を認定できるほどではなく、裁判所でも、あくまで事情・証拠の1つとして考慮されるに過ぎません。

また、遺言者の診断書が証拠になることもあります。例えば、遺言作成日当時に、遺言者の自筆能力や判断能力がないことがわかる診断書や周りにいた方の証言などがある場合は、それらも、本人(の意思)で作成することができないことを示すものですので、偽造を推認する証拠となります。

  • 01相続人は遺言を偽造すると相続権を失う
  • 02偽造が疑われる場合、民事上は遺言無効確認請求訴訟や相続権不存在確認請求訴訟を提起する
  • 03刑事上は、有印私文書偽造罪及び同行使罪の罪名で刑事告発する

まとめ

以上のとおり、特定の相続人による遺言書の偽造が疑われる場合、民事では遺言無効確認もしくは相続権不存在確認の訴訟を提起し、刑事では有印私文書偽造及び同行使罪で刑事告発をするということが考えられます。

事例のケースでは、長男の偽造が疑われるケースですので、今後、長男を遺産分割から除外するために、遺言無効確認を求めるにとどまらず、相続権不存在確認請求訴訟を提起した方がよいのではないかと思います。そのうえで、遺言書の作成日付から当時の母の診断書から自筆能力がない、判断能力がない等の事情が認められれば、遺言無効に傾く事情となりますし、筆跡鑑定等から明らかに従前の筆跡と異なるという鑑定結果を得られれば、それも無効に傾く1つの事情になり得ます。

次男としては、そのような事情や証拠を1つ1つ集め、丁寧に立証を積み上げながら、民事刑事の責任追及をご検討されてみてはいかがでしょうか。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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