相続不動産から滞納者を追い出す方法は?

2019.11.19 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|相続発生前から入居者が家賃を滞納しているケース

父の相続です。母は既に他界しているので、相続人は1人息子の私だけです。遺産は、預貯金と相続税対策で建てたアパート1棟です。

父はアパート経営について管理会社に委託していなかったので、父の生前から、家賃の入金管理などを私も手伝っていましたが、以前より、103号室の方(Aさん)は家賃が遅れることが多く、そのたびに、家賃の支払いを催促していました。
父が亡くなった後、入居者の方々には、私がアパートを相続したことと今後は私まで払ってくださいと案内文を渡しましたが、Aさんは、父が亡くなってから一切家賃を払わなくなってしまい、現在、4か月分が滞納しています。ちなみに、ほかの入居者は、皆さん、案内文に記載した私の口座に振り込んでくれています。

私としては、Aさんのようにいつも家賃が遅れる方には、今後も滞納すると思いますので、この際、早く出て行って欲しいと思っています。どのようにすればAさんに出て行ってもらえますか?

架空の事例です

相続発生により賃貸借契約はどうなる?

賃貸借契約の貸主が亡くなってしまった場合でも、賃貸借契約は当然に終了するわけではありません。

相続人は、被相続人の一切の権利義務を承継します。そして、賃貸人たる地位は、被相続人の一身専属権ではありません。
そのため、賃貸借契約における賃貸人たる地位も、相続人に相続されることになります。

条文

民法896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

相続が発生した場合、賃貸人たる地位を承継した相続人は、従前の契約内容をそのまま引き継ぎますので、賃貸借契約を新たに締結し直す必要はありません(当事者間で再度締結し直すことはできます。)。
また、敷金については、被相続人が負担していた敷金返還債務を、相続人が承継することになります。

滞納者には解除予告付きの催告を行う

賃貸借契約は、当事者間の信頼関係を前提にした継続的な法律関係ですので、家賃を滞納した場合でも、契約の解除が認められるためには、当事者間の信頼関係が破壊されたという事情が必要になります。
これを信頼関係破壊の法理といい、判例上も確立した法理といえます。

どの程度の滞納で信頼関係が破壊されたと言えるかは、個別の事情次第ですが、借家であれば1つの目安として3か月程度の滞納があれば、信頼関係の破壊が認められるケースが多いように思います。滞納が1~2か月程度では信頼関係の破壊が認められない傾向にあります。

そして、賃貸借契約書に、無催告解除事由として「1か月分の家賃の滞納があった場合」と規定されている場合でも、信頼関係破壊の法理が適用されるため、無催告解除特約にかかわらず、信頼関係破壊に至る程度の賃料不払いかどうかで、解除の有効性が判断されることになります。
判例も、無催告解除が認められる場合については、以下のとおり限定的に解しています。

判例

『家屋の賃貸借契約において、一般に、賃借人が賃料を一箇月分でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である。』(最判昭和43年11月21日)

そのため、賃料の滞納がある場合、解除の前提としては、「解除予告付きの催告」を書面で行っておくのが無難であると思います。
具体的には、「本書面の到達後●日以内に上記未払い賃料を支払うよう催告します」「もし、上記の期限内に未払い賃料の支払がないときは、本書面をもって賃貸借契約を解除します」などと、内容証明郵便で通知しておけばよいでしょう。

任意に退去しない場合には訴訟と強制執行

自己の正当な権利を実現するためであっても、相手方の意思に反して強制的に権利を実現させる場合には法的手続によらなければいけません。これを、自力救済禁止の原則といいます。

自力救済禁止の原則に従うと、賃貸借契約においては、賃借人に賃料不払い等の解除原因が認められる場合であっても、賃借人の意思に反して強制的に実力行使で退去を求めたり、合鍵を使って室内に入り勝手に賃借人の所有物等を処分することはできません。
退去を実現するためには、法的手段によらなければならないことになります。

仮に法的手段によることなく、賃貸人の承諾がないまま強制的に退去を求め、合鍵を使って室内に入り勝手に賃借人の所有物等を処分してしまった場合には、賃借人の平穏に生活する権利及び財産権を侵害するものとして、反対に賃借人から不法行為の損害賠償を請求される可能性がありますので、注意が必要です。

退去のための法的手段としては、以下の順番で段階的に進めていくことになります。

①解除予告付き催告を行う

信頼関係破壊に至る程度の賃料不払いがある場合、退去を求める前提として、まずは賃貸借契約を解除し、借主が賃借権を主張することができないようにする必要があります。そこで、先程も述べたとおり、解除予告付きで滞納賃料の支払い催告を行います。そして、催告期限までに滞納賃料が支払われなかった場合、基本的には解除の効力が発生します。

催告に対し、借主より「●日までに退去します」との連絡があった場合は、任意退去に向けた準備を進めます。具体的には、退去の時期や条件を明記した退去合意書を取り交わしたり、残置物の所有権放棄書の交付を受けるなどです。

②建物明渡請求訴訟を提起する

①催告により、借主が任意退去に向けた準備をしてくれればよいですが、話合いによる任意退去に応じてくれないケースも少なくありません。その場合でも、自力救済は禁止されますので、法的手段により退去させるためには、建物明渡しの認容判決を得る必要があります。そこで、建物明渡請求訴訟を提起します。

賃料未払いを解除原因とする建物明渡請求訴訟では、主として信頼関係破壊に至る程度の賃料不払いと言えるか否かが争われます。訴訟提起後も、可能であれば話し合いを行い、任意退去の見込みがあればその合意を目指しますが、話合いによる任意退去が見込めない場合、判決に向けて必要な主張と立証を行います。そして、裁判所が信頼関係破壊に至っていると判断すれば、建物明渡しの認容判決が言い渡されることになります。

なお、訴訟において、建物明渡請求に加え賃料請求をすることはもちろん可能ですが、未払いの金額をめぐって争いになり、そのせいで建物明渡請求を含めた訴訟全体の進行が長引くケースがあります。
また、そもそも家賃を滞納している方ですので、支払能力に乏しく、未払い家賃について判決を得たとしても、結局、回収できないということも十分にあり得ます。
そのため、今後の機会損失を最小限にとどめることを優先的に考えるのであれば、まずは建物明渡のみを訴訟上で求める、という選択肢も考えられますので、優先順位をつけて、訴訟の請求内容を検討されることをお勧めします。

③建物明渡の強制執行を申し立てる

判決を得ても借主が任意に退去しない場合、いよいよ強制的な退去を求めざるを得ないことになります。その場合、明渡判決に基づく強制執行の申立てを行うことになります。強制執行の申立は、物件の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して行います。

その後は、執行官と面接し、強制執行にあたっての確認事項(対象物件の場所やセキュリティの状況、鍵屋の手配の有無など)について打ち合わせを行います。そのうえで、明渡しの催告の日を設定してもらいます。
催告期日では、物件の占有状況を確認した後、引渡し期限と実際に強制執行を行う日を公示書に記載し、物件内に貼り付けます。この手続により、いよいよ退去を避けられないと考え、借主が任意に退去をしてくれるのが望ましく、実際に、この段階で任意に退去する借主も少なくありません。

しかし、催告期日を経ても任意に退去しない場合には、明渡しの断行を行うことにより、強制的に明渡しを実現することになります。

なお、強制執行時に物件内に残置されていた荷物については、通常、執行官が指定する場所に一定期間(通常は1か月程度)保管されることになります。保管された荷物は、一定期間内に賃借人が引き取りに来ない場合、売却または廃棄されることになります。 そして、荷物がすべて運びだされた後は、鍵を交換し、ようやく建物明渡しが適法に完了することになります。

  • 01賃貸人たる地位も、相続により相続人に承継される
  • 02判例上、賃貸借契約の解除については信頼関係破壊の法理が採用されている
  • 03催告、訴訟、強制執行と段階的に行い、いずれかの段階で任意もしくは強制的な退去を実現する

まとめ

以上のとおり、相続により承継したアパートに滞納者がいる場合、解除予告付きで支払いを催告し、任意に退去しない場合には訴訟を提起し、それでも退去をしない場合には判決に基づく強制執行という方法により、滞納者を追い出すことが実現できます。

事例のケースでは、すでに4か月分の滞納がありますので、これまで慢性的な滞納状況にあったことも踏まえると、信頼関係破壊に至る程度の賃料不払いと認められる可能性は十分にあるのではないかと思います。
そこで、建物明渡しを実現するために、催告、訴訟、強制執行と段階的に手続きを進め、いずれかの段階で任意に退去していただくか、任意退去をしない場合には強制執行(明渡しの断行)により退去の実現を図るのがよいのではないでしょうか。

なお、滞納者は往々にして、実現可能性の低い解決案を持ち掛けてくるなどして、少しでも長く現在の住居にとどまろうとします。そのため、催告期間内に未払い賃料の支払いがなく、解除の法的効力が発生した場合には、実際に借主が退去をするまで、粛々と訴訟、強制執行と手続きを進めていくのがよいと思います。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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