無効な遺言書も死因贈与として有効になる?

2019.12.16 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|兄が生前、弟の妻に遺産をのこすと約束していたケース

兄が亡くなりました。兄は独り身だったので、その相続人は、私と弟の2人です。

兄は病気を患い、退院後は自宅で生活していましたが、私の妻が献身的に兄の身の回りの世話を行っていました。そのため、兄は、「私が死んだら、遺産の一部を弟の妻に遺します」という遺言書を作成していました。しかし、その遺言書には押印と日付が抜けていたので、検認後に、弟から「遺言は無効なので法定相続分で分けよう」と言われています。

兄は生前、私の妻に「本当に感謝しているから遺産も一部受け取ってほしい」と言っていて、妻もこれを受け入れ、そのことは弟も知っていますし、ヘルパーさんも何度も聞いています。

それでも遺言書が無効の場合、私の妻は何ももらえないのでしょうか?

架空の事例です

1.遺言と死因贈与の違い

設例のケースでは、遺言書としては無効でも「死因贈与」として有効になり、弟の妻は財産を一部受け取れる可能性があります。
まず、遺言と死因贈与とはそれぞれどのようなもので何が違うのか、理解しておきましょう。

1-1.遺言とは

遺言とは、個人(遺言者)が死後に主に自己の財産(遺産、相続財産)に関して、これを誰にどのように取得させるかについて意思を表示する、遺言者の最終の意思表示です(詳細は、基礎知識6-1を参照)。

遺言をすると、法定相続人以外の人に財産を残すなど自由に財産処分できます。ただし、遺言には厳格な要式が求められ、少しでもその要件を欠くと無効になります。
たとえば、自筆証書遺言の場合には遺産目録以外の全文を自書して作成しなければ無効です。また、署名や押印、作成日付が抜けても無効になります。

1-2.死因贈与とは

死因贈与は、死亡した時点で財産を贈与する契約です。通常の契約と同様、贈与者と受贈者の意思が一致したときに成立します。遺言のように、遺言者の一方的な意思で行うことはできません。

もっとも、遺言のような厳格な要式性はなく、契約書がなくても死因贈与契約は有効に成立します。ただし、通常は契約書がないと死因贈与契約を立証しにくいので、契約書等を作成しておくのが望ましいと言えます。

2.遺言としては無効でも死因贈与として有効になる場合がある

遺言には厳格な要式性が求められるため、ときには要式を満たさず無効になってしまう場合があります。よくあるのが、自筆証書遺言で日付の記載や押印を忘れてしまうケースです。

また、公正証書では2人の証人が必要ですが、未成年者や受遺者の親族、公証人の親族など一定の方には証人資格がありません。こうした人が証人となっているのに見過ごされて公正証書遺言が作成されると、公正証書遺言も無効になってしまいます。

ただ、事例の弟の妻のように、遺言者が生前に対象者へ財産を残したいことを明らかにしており、対象者もこの意思を受け入れており、そのことを両当事者が認識しているようなケースであれば、たとえ遺言としては無効でも死因贈与として有効と扱ってよいと考えられます。

実際、裁判例にも、無効な遺言を死因贈与として有効であるとした事例が複数あります。

3.無効な自筆証書遺言が死因贈与として有効とされた裁判例

水戸家審昭和53年12月22日

自筆証書遺言に押印がなかったため無効になってしまった事例です。しかし、遺言書の内容全体を見ると死因贈与の申込みと理解できること、受贈者も贈与の申込みを受諾したと認められることから裁判所は遺言の死因贈与への転換を認めました。なお、このケースでは、遺言の有効性を争う利害関係人が存在しなかったようで、そのような事情も判断に影響している可能性があります。

東京地判昭和56年8月3日

生前に献身的に身の回りの世話をしてくれた女性に対し、遺産の一部を贈与しようと考えて死亡前に手紙を自筆で作成し、署名捺印して女性に手渡したケースです。しかし、自筆証書遺言としての形式要式は満たしていなかったため、「遺言書」としては無効とされてました。
もっとも、本人が自筆していることに変わりはなく、女性側も手紙を受け取り贈与を受け入れていたことなどから、遺言としては無効でも死因贈与として有効と判断されました。

広島家審昭和62年3月28日

自筆証書遺言の作成日付と遺言者の押印がなかったため、遺言としては無効とされたケースです。もっとも、遺言の内容は、「妻にすべての財産を与える」と記載されており、遺言書が作成された経緯や妻も財産を譲り受ける認識を持っていたことなどから、「死因贈与が成立したことは明らか」と判断され、包括死因贈与への転換が認められました。

広島高判平成15年7月9日

被相続人が入院中に口頭で話した内容を弟が書き写し、本人が署名押印したケースです。相続人は1人を除いてその書面の内容に納得しましたが、1人の相続人は葬儀の際に初めて書面の存在を知り「遺言書としては無効」として、遺言の有効性を争いました。
これに対し、裁判所は「方式違背により遺言としては無効でも死因贈与の意思表示があったと認められる」と判断して、死因贈与の効果を認めました。

4.無効な公正証書遺言が死因贈与として有効とされた裁判例

公正証書遺言が無効となったケースでも死因贈与として認められた事例があります。

東京高判昭和60年6月26日

証人の1人に欠格事由があって公正証書遺言が無効になったケースです。
公正証書遺言の作成前に贈与者と受贈者との間で死因贈与の合意が成立していたと認められることや、遺贈と死因贈与はどちらも贈与者の死亡によって受贈者へ贈与をするという意味で実質的に同じであることなどから、裁判所は、公正証書遺言としては無効であるとしたものの、死因贈与契約が成立しているとの判断をしました。

5.死因贈与への転換を認めず遺言書の効果を否定した裁判例

無効な遺言書の死因贈与への転換が認められなかった事例もあります。

大阪高判昭和43年12月11日

父親が、末娘に土地などを遺贈する旨の公正証書遺言を残したものの、欠格者が証人になっていたため、遺言としては無効であったケースです。
父親は生前、まったく死因贈与の話をしたことがなく、末娘本人も遺言の存在を父親の死後に初めて知ったという事情であったため、裁判所は、死因贈与の意思表示の合致を認めず、無効な公正証書遺言について死因贈与の転換も認められないと判断しました。

仙台地判平成4年3月26日

遺言者が友人に代書を依頼して「全ての財産を孫に残す」旨の遺言書を作成したケースです。遺言者が自筆していないので自筆証書遺言としては無効で死因贈与への転換が争点となりました。
裁判所は、遺言者の不動産が死亡直前に孫以外の者に譲渡されていたことや遺言書の作成状況、保管の経緯、親族に呈示された時期などからしても死因贈与の意思表示とは認められず、孫側における承諾も認められないとして、死因贈与への転換を否定しました。

6.無効な遺言書の死因贈与への転換が認められるかどうかの判断基準

死因贈与も「契約」である以上、無効な遺言書の死因贈与への転換が認められるかどうかの判断にあたっては、遺言者(贈与者)側の「死因贈与の意思」と受贈者側の「贈与を受ける意思」が合致していることが重要です。

書面作成の経緯や保管状況、遺言者と受贈者の生前のやり取り、受贈者の認識、受贈者以外の親族の認識など各種の事情を考慮し、遺言者(贈与者)に死因贈与の意思が認められ、受贈者も遺言者の意思を認識していることが証拠上認められれば、死因贈与への転換が認められやすくなるといえます。

  • 01遺言は遺言者が一方的に作成できるが、死因贈与は契約のため、両当事者の合意が必要
  • 02無効な遺言書であっても、死因贈与として有効と解される場合がある
  • 03死因贈与への転換が認められるためには、遺言者側の意思のみならず、受贈者側の「贈与を受ける意思」も重要

まとめ

いかがでしたか。上記の裁判例のとおり、遺言書としては残念ながら無効とされてしまう場合でも、遺言者と贈与者の認識やその他の事情によって、死因贈与として有効と判断される場合があります。

死因贈与への転換が認められるか否かは個別の事情次第ですので、無効とされた遺言が死因贈与として有効と認められるかどうかについては、資料等をもとに弁護士に相談されることをお勧めいたします。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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