遺留分に時効はある?

2020.01.10 UPDATE

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

事例|「長男に全財産を相続させる」との遺言が発見されたケース

父の相続(R1.7.31死亡)です。相続人は、母と姉(長女)、兄(長男)、私(次男)の4名です。父の遺産は、自宅兼事務所として使用していた不動産のみです。

父が亡くなった後、父の机から遺言書と書かれた封筒が見つかったので、裁判所に検認を申し立て、検認期日で遺言書が開封されました。そこには、「私のすべての財産を長男に相続させる」と記載されていました。


父は事業をやっていましたが、体調を崩してからは兄が父の事業を引き継いだという事情があったので、父は、すべて兄に相続させることにしたのかもしれません。しかし、まったくもらえないのは不公平だと思ったので、友人の弁護士のアドバイスもあり、「遺留分の権利を行使します」という内容証明を送り、兄にはR1.12.30に届いています。

とはいえ、父の事業を継いでくれた兄に感謝の気持ちもあり、裁判等を起こすのは躊躇しています。少し考えてから決めたいと思うのですが、遺留分の権利は、時効になってしまうことがあるのでしょうか。

架空の事例です

はじめに

遺留分の権利は、相続開始と遺留分を侵害する遺言や贈与を知ったときから1年以内に行使しないと、時効消滅します。また、相続法改正により遺留分侵害に対する請求権が金銭債権化されましたので、権利行使後は、一般の金銭債権と同様に時効消滅することになりました。

それでは以下で詳しく見ていきましょう。

目次

 ■ 相続法改正前の遺留分制度
   ・ 遺留分の時効には2種類ある
   ・ 遺留分請求前の時効について
   ・ 遺留分請求後の時効について
 ■ 相続法改正により金銭債権化
   ・ 遺留分が金銭債権になったら何が変わるのか
   ・ 金銭債権には時効がある
   ・ 期限の許与の規定も新設された
 ■ 本件ではいつまで?
   ・ 基本的には遺留分侵害額請求を行ってから10年
   ・ 判決を取得した場合、判決確定から10年
   ・ 猶予期間が設けられたら猶予期間満了時から10年

相続法改正前の遺留分制度

相続法改正により、遺留分権についての法的性質が大きく変わり、それに伴い時効についての考え方も変わりました。

事例のケースでは、ご相談者様の遺留分の権利が、今後、時効で消滅してしまう可能性があります。

まずは、相続法改正前の遺留分制度と時効について、理解しておきましょう。

遺留分の時効には2種類ある

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限度の遺産相続割合です。

遺言によって遺留分を侵害された場合、遺留分の権利者は侵害者(遺言により遺産を多く受け取る人)に対し、侵害された範囲で返還請求をすることができます。これが、遺留分に基づく請求権です。

そして遺留分請求権の「時効」には、「請求前の時効」と「請求後の時効」があります。

請求前の時効は、そもそも遺留分請求権を発生させられなくなる時効です。一方、請求後の時効は、発生した遺留分請求権が消滅してしまう時効です。

遺留分請求前の時効について

請求前の時効については、相続法の改正前後で変わりありません。

具体的には、相続開始と遺留分を侵害する遺言や贈与を知ったときから1年以内に遺留分侵害者へ遺留分請求の意思表示をしないと、遺留分請求権が時効消滅します。

また、相続開始後10年が経過した場合も、権利者が相続開始や遺留分を侵害する遺言書の存在について知らなくても遺留分請求権が時効消滅してしまいます(改正前の民法1042条、改正後の民法1048条)。

事例のケースでは、父が死亡したのが令和元年7月31日で、その5か月後である令和元年12月30日に兄に対し遺留分請求書が届いているので、請求前の時効により遺留分請求権そのものが時効消滅することはありません。

なお、兄に届いたことは内容証明郵便の配達証明書により証明できますので、遺留分権行使の意思表示は、内容証明郵便等の方法により行うことをおススメします。

遺留分請求後の時効について

遺留分請求をするときには、遺留分権を行使した後の時効についても考えておく必要があり、事例のケースではまさにその時効が問題となっています。その場合、相続法の改正が大きく影響してきます。

相続法改正前の遺留分請求権は、遺産そのものを取り戻す権利でした。これを「遺留分減殺請求権」といいます。

遺留分減殺請求の場合、権利行使と同時に、各相続財産について、遺留分の侵害割合に応じ権利を取得することになります。つまり、請求をしたらその時点で当然に、遺産の所有権(共有持分権)を取得することになるのです。これを「物権的効果」といいます。

たとえば、本件のように自宅兼事務所の不動産が相続財産である場合、遺留分減殺請求をしたら、権利行使により法律上当然に、自宅兼事務所が次男と長男の「共有状態」となります。そして、所有権(共有持分権)や所有権に基づく登記請求権は時効によって消滅することはありません。

そのため、改正前の遺留分制度の場合、いったん遺留分減殺請求権を行使すれば、その後、所有権自体や所有権に基づく登記請求権が時効によって消滅することはありませんでした。(最判平成7年6月9日)。

相続法改正により金銭債権化

ところが相続法改正により、遺留分権の法的な性質(物権的効果)が変更されました。

遺留分が金銭債権になったら何が変わるのか

遺留分請求権は、遺産そのものを取り戻す権利ではなく金銭請求をする権利に変わりました。

つまり、遺留分権を行使すると、遺産である不動産の持分を取得するのではなく、侵害者に対し、遺留分の侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利となりました。これを遺留分侵害額請求権といいます。

遺留分侵害額請求権は、貸付金の返還請求などと同じ金銭債権(お金を請求する権利)です。そのため、侵害している側の支払いが遅延した場合、遅延日数に応じて遅延損害金も発生します。

なお、遺留分侵害額請求権の場合、遅延損害金の利率は法定利率となります。この法定利率の割合は、2020年4月1日に施行された改正民法において、5%から3%へ変更されました。

金銭債権には時効がある

遺留分侵害額請求権も金銭債権である以上、他の金銭債権と同様、時効により消滅します。

消滅時効期間については、2020年4月1日施行の改正民法において、「権利を行使することができることを知った時から5年」「権利を行使することができる時から10年」と改正されました。

そのため、遺留分侵害額請求権についても、侵害者に対し遺留分侵害額請求を行ったときから5年あるいは10年間で時効消滅してしまいます。

期限の許与の規定も新設された

なお、遺留分侵害額請求権が行使された場合に、侵害者に遺留分侵害額を支払う資力がない場合があります。例えば、事例のように遺産が不動産のみで、その他、自分の預貯金や財産がほとんどない、というケースです。

そのような場合、侵害額を支払うためには、相続した不動産を担保に借入するか、不動産を売却するなどして、お金を用意する必要があります。しかし、それらをするためには、一定程度の時間が必要になってしまいます。

そこで、改正相続法では、そのような場合には、侵害者の請求により、裁判所が「相当の期限を許与」することができることとなりました(改正後の民法1047条5項)。

具体的にいつまで支払期限が猶予されるのかは今後の裁判実務の積み重ねを待つほかありませんが、おそらく、遺留分侵害額を支払うための遺産の換金や資金調達に通常必要な期間として、数か月程度とされるのではないかと思われます。

本件ではいつまで?

では、事例のケースでは、いつまで兄に遺留分の金銭支払いを請求できるのでしょうか?

基本的には遺留分侵害額請求を行ってから10年

遺留分侵害額請求が行われたのは時効期間に関する改正民法が施行される前なので、基本的には、遺留分侵害額請求を行ったときから10年で遺留分侵害額請求権が時効消滅すると考えられます。

令和1年12月30日に遺留分侵害額請求書が長男に到達しているので、その10年後の令和11年12月30日の経過により、遺留分侵害額請求権は時効消滅します。

判決を取得した場合、判決確定から10年

事例のケースで、仮に、長男が遺留分侵害額の支払いに応じない場合、次男は長男に対し、遺留分侵害額請求訴訟を提起することが考えられます。

そして、訴訟で次男の請求を認める判決が言い渡された場合、消滅時効期間は、判決確定日から10年となります。この点は、民法改正の前後で変わりありません。

たとえば、判決が令和2年5月10日に言い渡され、5月26日に確定した場合、遺留分侵害額請求権の時効期間は令和12年5月26日までとなります。

猶予期間が設けられたら猶予期間満了時から10年

また、裁判所より遺留分侵害額の支払いについて相当期間が猶予された場合には、消滅時効期間も延びると考えられます。

つまり、令和2年5月10日に判決が言い渡され、5月26日に確定した場合でも、判決主文において「被告は原告に対し、令和2年12月26日が到来したときは〇〇万円及びこれに対するから令和2年12月27日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え」として、令和2年12月26日まで支払期限が猶予された場合には、同日までは履行遅滞にならないため、その時効期間は、令和2年12月27日から10年後の令和12年12月27日までとなると考えられます。

  • 01遺留分権は、侵害を知ったときから1年以内、相続開始から10年以内に行使する必要がある
  • 02相続法改正により遺留分請求権が金銭債権化された
  • 03相続法改正後は、遺留分侵害額請求権も一般債権と同様に時効になる

まとめ

いかがでしたか。遺留分制度については、一定の相続人に遺留分が認められる点には変更がありませんが、相続法の改正により遺留分権が金銭債権化されたことで、相続財産の共有等による生ずる二次紛争を避けることができるようになりましたし、事業承継の方法としても遺言をより活用しやすくなりました。

もっとも、改正相続法施行後は遺留分侵害額請求権が時効消滅してしまう場合がありますし、改正相続法施行前に相続が発生したケースでは、依然として遺留分減殺請求により物権的効果が生じることになります。

このように、個別のケースごとで、遺留分権の行使によりどのような法律効果が発生し、どのような対応が必要かも異なってきますので、その点を正確に把握するためには、遺留分を請求する方も、請求された方も、弁護士などの専門家に相談されることをおススメします。

コラム執筆者:弁護士 細越善斉

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